ヤムヤムとしいたけ王国 | |||||||
これは2001年11月納豆嫌いの私の掲示板に納豆ギャグを載せていったネットフレンドヤムヤムさんの掲示板に彼の嫌いなしいたけネタで逆襲をしたときのお話。 | |||||||
とあるところに、しいたけ王国というそれはそれは素晴らしい国がありました。そこは、しいたけ姫が国を治めており、国民は皆しいたけを愛し、しいたけを食し、元気に暮らしておりました。 その頃、大地は数千年前の世界核戦争によって汚染され、空は曇り太陽は弱弱しく、ほとんどの国が滅びていたのです。 しいたけ国だけが皆元気であったのは、わずかな太陽の光を大きなドーム内に取り入れ増幅させ、乾燥しいたけを作る技術を持っていたため、人類の多くがビタミンDを失い骨をもろくし倒れていく中で、しいたけ国民の多くは生き残れたのでした。 そんな、穏やかなしいたけ国に、ある日、女と子供2人を連れた謎の放浪者が現れました。 彼の名前はヤムヤム。未だ戦争の続く遠い国から命からがら逃げて来たようです。遠い国では、このしいたけ国の噂が広まっていました。東のほうに、皆元気で健康に暮らす、幸せの国があると。ヤムヤムは、戦争で大きな痛手を受けながらも、家族を守りつつ、ここまで逃げてきたようです。 国の中に入ろうとしたとたん、ヤムヤムたちは門番に取り押さえられました。外からの侵入者に対しては、とても厳しい国だったのです。なぜなら、この国では、しいたけを食せぬものは生きることは出来ませんでしたから。 門番たちは言いました。 「これこれ、あなた方はどこからいらしたのかな?」 「西の国からです」 「そうですか。この国にどういった用事で?」 「私どもの国は、戦争で悲惨な土地になりました。家族を守っていくためには、ぜひともこの国で生きていきたいと願い、命からがらやってきたのです。どうか、何か食べるものをわけて下さい。」 「そうですか。それはお困りでしょう。では、こちらへどうぞ。」 ヤムヤムたちは、城壁の横にある教会へ案内されました。そして、暖かな風呂に入ることを許され、暖かな部屋へ案内されました。そこには、それはそれは大変なご馳走がテーブルの上に並んでいたのです。しかし、ヤムヤムは見逃しませんでした。そのテーブルの真中に、山盛りのしいたけがあることを。 しばらく椅子に座って待っていると、薄青の絹の衣を来た女性が部屋に入ってきました。それは、しいたけ姫でした。 「あなたがたが、遠い国からいらっしゃった方々ですね。お疲れでしょう。さあ、どうぞ召し上がれ。」姫は優しく言いました。 人の暖かさ、優しさに触れたヤムヤムたちは涙の溢れるのもかまわず、ご馳走を食べました。しかし、ヤムヤムはしいたけだけが食べれなかったのです。ヤムヤムの妻と子供たちはしいたけも美味しそうに食べていました。しかし、しいたけを残してしまったヤムヤム・・・。 それを見た姫は、突然言い放ちました。 「このものを、牢に入れろ!」 しいたけ国では、しいたけを食べられないものは人として認められなかったのです。 「ええ〜〜!そんな!どうか姫様、ヤムヤムを許してください。今、食べますから。お願いします。さあ、あなた、早く食べて〜〜!」 妻は泣きながら訴え、ヤムヤムの口にしいたけを入れようとしました。しかし、ヤムヤムは、しいたけが大嫌い。口に入れられたしいたけを吐き捨てこう言いました。 「こんなもの、食えるか〜〜!!」 「衛兵!こやつを取り押さえろ!」姫が命令します。 「わが国はしいたけのおかげで生き長らえておる。そのしいたけを食べれぬとは、この国で生きていく資格はない。さらに、しいたけをこんなものと言い放ったお前の罪は重い。明日、しいたけ広場にて処刑とする。しかしながら、お前の子供たちはまだ小さい。お前がいなければせずともよい苦労もしなければならなくなるだろう。妻と子供たちに免じて、それまでに改心し、しいたけを食べることが出来たなら、許してもやろう。牢にてよおく考えるがよい。」 姫の言葉には、この世界において生きていくことの困難さをよく知ったものの慈愛が満ちておりました。 ヤムヤムは、牢に入れられ、冷たい石の床に腰を下ろし考えました。 (私は、なぜ、しいたけが食べられなかったのだろう。命と引き換えにしてまで食べられないものが、この世に果たしてあるのだろうか。いや、そんなもの、あるはずはない。私だって、きっとしいたけを食べることができるはずだ。もしもここで私が死んでしまったら、妻と子供たちは私をなんと思うだろう。自分の信念を貫いた立派な父だったと思うだろうか。いや、そんなはずはない。自分たちと生きることより、しいたけを食べないことを選んだ情けない男だと思うに違いない。愛する妻と子供たちを捨ててまで、貫く信念などゴミにも等しい。そうだ、私も心を入れ替えよう。食べてみればしいたけだって美味しいに違いない。) 翌朝、心を入れ替えたヤムヤムは、しいたけ姫の前でこう言いました。 「姫様。どうぞ、この私に今一度のチャンスをお与え下さい。私は心を入れ替えました。どれほどたくさんのしいたけであっても、私はきっと食べてご覧に入れます。すべて食べ終えたあかつきには、姫様、私と妻と子供たちがこの国で幸せになることをお許しください。」 「うむ。あいわかった。誰か、先ほどわたくしが用意しておいた物をここへ持て。」 衛兵が蓋をかぶせた大きな皿を運んできました。ヤムヤムは、その皿の大きさに思わずごくりと固唾を飲みました。中央に置かれた皿の蓋を、すっと立ち上がった姫が開けました。 「おおーー!!」 それを見ていたすべての人々から、どよめきが起こりました。その皿にのっていたしいたけは、たった一切れだったのです。 それを見たヤムヤムは、涙が溢れました。しいたけが嫌いなヤムヤムの家族のことを思い、せめて一切れでも食べることが出来たなら許してやろうという、しいたけ姫の愛情深い心づかいだったのです。 ヤムヤムは迷うことなくそれを口に入れました。 とめどなく溢れる涙をぬぐいもせず、何度も何度もしいたけをかみ締めました。 そして、そのしいたけを飲み込んだとき、ヤムヤムの心には暖かな太陽の光が染みていったのでした。それを感じたヤムヤムは思いました。 (なんて美味しいものだったんだ。しいたけとは、なんて素晴らしい食べ物だったのだ。私は、本当に間違っていた。そして、この姫様のなんと愛情深いことよ。ああ、これからは、この素晴らしいしいたけ国でしいたけの栽培をしながら生きていこう。) 想いは、涙で言葉にはなりませんでした。おわり。 |
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